核兵器、それは人類の滅亡をもたらすものです。今から53年前、8月9日午前11時2分、一発の原子爆弾が、ここ長崎市の上空500メートルでさく裂しました。死者7万4千人、負傷者7万5千人。この世の地獄とも言うべき惨状でした。辛うじて生き延びた人々も、あの日の出来事が心の傷として残り、今なお原爆後障害に苦しみ、孤独と不安の日々を送っています。わたしたちは、あの8月9日を決して忘れません。
「ナガサキを最後の被爆地に」との願いは、多くの人々を動かし、核兵器廃絶の声を世界へ広げました。国際司法裁判所が、核兵器の威嚇と使用は実質的に国際法に違反するとの勧告的意見を示し、世界中に核軍縮への期待が高まり、核兵器廃絶の具体的提言が相次ぎました。ところがこの5月、インドとパキスタンが核実験を強行したのです。わたしたちの心はさらに傷つき、痛みました。そして、核軍縮の努力を怠り、核兵器独占体制を正当化し、核抑止政策を保持しようとする核保有五か国の姿勢にも、強い怒りを覚えずにはいられません。
核兵器拡散が現実のものとなり、世界はまたも核兵器開発競争の危険に直面しています。わたしたちは、今こそ核兵器全面禁止条約の早期締結を強く求めます。核保有国を含む世界の指導者は、核兵器の開発、実験、製造、配備、使用を禁止し、現在保有するすべての核兵器を解体し廃棄することを、直ちに宣言してください。そして、そのための条約締結の交渉を始めるべきです。21世紀を核兵器のない時代とするため、20世紀中に核兵器廃絶への道筋をつけること、これが、わたしたちの願いです。
日本政府に求めます。非核三原則を法制化し、北東アジア地域の非核地帯化実現に努力して、「核の傘」に頼らない真の安全保障を追及してください。被爆国として被爆の実相と核兵器の脅威を世界に伝え、核兵器廃絶のために主導的な役割を果たしてください。年々高齢化する被爆者の援護の充実に努めてください。アジア・太平洋諸国への侵略と加害の歴史を直視し、その反省の上に立って、アジア諸国と歴史認識について率直に話し合い、信頼と相互理解に基づく新しい友好関係を一日も早く築いてください。
若い人たちに求めます。今年は世界人権宣言50周年です。戦争の悲惨さと平和の大切さ、命の尊さを考え、学校や家庭で話し合ってください。飢餓、貧困、難民、人権抑圧、環境破壊など、平和を脅かす問題を、自分の問題としてとらえてください。その解決のために、異なる文化、異なる価値観、そして他の人との違いを認め合い、自分にできることから勇気をもって行動してください。
わたしたちは、本年11月の国連軍縮長崎会議および来るべき第四回国連軍縮特別総会が核兵器廃絶への大きな一歩となるよう努力します。
被爆53周年にあたり、原爆でなくなられた方々のごめい福を心からお祈りいたしますとともに、ここに長崎市民の名において、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向けてさらに努力することを、国の内外に宣言します。
8月9日
長崎市長 伊藤 一長 |