日本のみなさん、世界のみなさん、長崎の声を聞いてください。
あの日、この浦上の地に原爆が襲いかかりました。直下にあった城山国民学校と山里国民学校の鉄筋校舎は無残に破壊されました。城山では、学校にいた先生と動員学徒など152人のうち133人が、山里では先生32人のうち28人が死亡。両校合わせて3千100人いた児童のうち2千700人余りが自宅で死亡。3か月後、授業が始まって集まった子どもたちはわずかで、死をまぬがれたとはいえ、原爆症におののく日々が始まっていました。今日は悲しい原爆の日。私たちは、犠牲となった人々の叫びと平和への願いを伝えるため爆心の地に集まりました。
1.あの戦争と原爆を思いおこし、声高く語り継ごう
日本人は、アジアに対する侵略と加害の歴史をふり返り、厳しい反省の上に立ってその償いを考えなければなりません。私たちの反省がなければ、日本が世界の国々の信頼を得ることはできません。
あの戦争が終わってから半世紀がたち、戦争体験、被爆体験が風化しようとしています。私たちは、戦争の悲惨さと原爆の恐ろしさを若い世代に語りつぎ、平和の大切さを伝えなければなりません。
青少年のみなさん、戦争への道をたどった日本の歴史や、今日の国際情勢を学び、世界の平和のために何ができるかを考えてください。世界の恵まれない子どもたちを助け、飢餓、貧困に苦しむ人々のため勇気をもって行動してください。
2.核兵器全面禁止条約の締結こそ被爆都市ナガサキの願い
昨年、アメリカとロシアは戦略核兵器の大幅削減に合意しましたが、2003年になってもそれぞれが3千ないし3千500という、全人類を抹殺しても余りある量の核兵器を持ち続けます。また、今年1月、核実験全面禁止条約交渉が始まりましたが、一方では中国の核実験やアジア・中東における核兵器開発疑惑など、核兵器の脅威は依然として続いています。
来年4月、核不拡散条約の再検討が開かれています。この条約は、新たな核兵器保有国の出現を防ぐ一方、核保有国が核兵器を持ち続けることによって核戦争を未然に防ぐという、核抑止の考え方に立った条約であります。私たちは、核保有国が核廃絶の意志を示さないまま、核不拡散条約を無条件・無期限に延長することに反対します。核保有国は核抑止の考えを捨て「核実験全面禁止条約」を経て、核兵器廃絶を実現するための「核兵器全面禁止条約」の締結に向け、一日も早く行動を起こすべきであると訴えます。
3.核兵器使用は国際法違反であることをはっきりと言おう
私たちは、人類史上初めて原爆を経験しました。核兵器は全人類を滅ぼす力を持っている絶対悪であります。このような非人道的、無差別大量殺りく兵器の使用が国際法に違反していることは言うまでもありません。日本政府は、私たち国民の視点に立って、核兵器の使用は国際法に違反しているとはっきりと言うべきであります。
我が国がプルトニウムを大量に蓄積していることによって、日本は核兵器を開発するのではないかとの疑惑を招いています。私たちは、再三にわたり非核三原則の立法化を求めてきました。日本政府は今こそこれを立法化し、日本は核兵器を保有する意志のないことを世界に示すとともに、核兵器は絶対悪であることを率先して世界に訴えるべきであります。
4.直ちに被爆者援護法の制定を、外国人被爆者にも同等に
被爆者援護法は参議院において二度可決され、全国地方議会の七割が制定促進の意志を明らかにしているにもかかわらず、まだ制定されていません。被爆者は戦後10年間、最も治療と救済を必要としていた時に何の援護措置もありませんでした。
今、援護法制定が遅れるたびに、多くの被爆者が失意のうちに世を去っています。被爆者は、もう待てません。日本政府は、核兵器を使わせず、戦争を決して起こさない決意の証として、戦後の区切りである被爆50周年までに、国家補償の精神にもとづく被爆者援護法を制定してください。
さらに、朝鮮半島や中国等から強制連行され、長崎・広島で被爆して帰国した人々にも、日本人被爆者と同等の援護をすべきであります。
5.今、世界平和のために私たちがなすべきこと
みなさん、今、世界に目を向けてください。
民族・宗教の対立による地域紛争の多発や地球規模での環境破壊、飢餓、難民など世界には解決を迫られている問題がたくさんあります。
日本政府は、これらに対処するため、現在の政府開発援助を見直し、発展途上国の人々の生活向上に積極的な貢献をすべきであります。私たち一人ひとりも、日々の生活の中で、地球環境を守り、世界の貧しい人々の救済と人権擁護に関心を持ち、援助の手を差しのべなければなりません。戦争の悲惨さを身を持って体験した私たちは、日本国憲法の平和理念にもとづき、紛争解決に武力を使うことは誤りであると強く訴えます。
6.被爆50周年に向けて長崎は決意します
来年の被爆五十周年に向けて、私たち長崎市民は、長崎から平和の願いを国の内外に発信するため、一丸となって努力しようではありませんか。
長崎市は県とともに国連軍縮長崎会議の開催に努力し、私たちの悲願である核兵器廃絶実現に向けて大きな一歩を踏み出します。また、アジア・太平洋青少年平和会議を開き、若者の連帯と交流を深めます。
来年、創設50周年を迎える国連が、大国中心主義でなく、真に世界の平和と地域の安定のために主導的な役割を果たすことを期待し、長崎市も世界平和連帯都市市長会議等を通じて国連の活動を支援します。
原爆被爆49周年に当たり、犠牲者のご冥福と、ご遺族、被爆者のご健康をお祈りし、全市民が手を携え、核兵器廃絶と世界平和実現のため、努力することをここに宣言します。
8月9日
長崎市長 本島 等 |