日本の皆さん、世界の皆さん、長崎の声を聞いて下さい。
43年前のきょう、世界で2番目の原爆がさく裂した。巨大な火の玉が空を覆い、数千度の熱線とすさまじい爆風、悪魔の放射線が地上に襲いかかった。地上の すべては赤々と燃えに燃えて瓦れきと化した。大地が火を噴き、廃墟の中に黒焦げになった死体、水を求めて川辺にたどりついて息絶えた人たち、死んだ親を背
負っている子供、冷たくなった赤ん坊を抱きしめ必死に丘をはい上がる母親、焼けただれた皮膚をぼろぎれのようにひきずって歩く少年、電気に打たれたように 髪が逆立っている少女、全裸に近い姿で逃げ惑う幽鬼の群れ。まさにこの世の地獄絵図であった。
かつて人類が経験したことのない破壊と絶望がそこにあった。今、長崎・広島に残る資料は、当時の惨状の1万分の1も伝えることができるだろうか。しかも今 日まで多くの人が被爆の後遺症でこの世を去り、また、年老いて病弱の不安におののいている被爆者の数はあまりにも多い。
長崎は人類みな殺しの恐ろしいこの原爆が二度と使われないことを願って、世界に向かって核兵器の廃絶を訴えてきた。しかし、世界の核兵器は質・量ともに増強され、人類を何回も絶滅させるほどに保有されている。
今年6月、米ソ両国によるINF全廃条約の成立は、歴史上初めての核軍縮として歓迎すべきことである。しかし、陸上配備のINFは全廃されるが、米ソ両国 とも海洋配備のINFは、依然として増強されつつあり、特に太平洋、日本海、オホーツク海等公海は無制限な核戦略の基地に変わってきた。まさに核戦争の危
機の重点は、アジア・太平洋地域に移ったといわなければならない。南太平洋非核地帯条約が締結された現在、今こそ日本とその周辺を非核地帯とすることが急 務である。
非核三原則が日本の国是となって20年、その空洞化はもはや許されない時にきた。アメリカの艦船の日本への寄港に対して、日本政府は主体性をもって核兵器 の有無を検証し、非核三原則を厳しく守る立場を鮮明にすべきである。今や核保有国、特に米ソ両国の艦船が外国に寄港する際、核兵器搭載の有無を通告するか
否かは、世界政治の重大問題となってきた。
今年6月、ニューヨークで開催された第3回国連軍縮特別総会は最終文書の採択がなされず、複雑な国際情勢を浮き彫りにしたが、このことは、核軍縮のためには米ソ両国だけでなく、多国間の話し合い、世界の市民運動の盛り上がりがますます必要であることを示している。
来年8月、長崎・広島で第2回世界平和連帯都市市長会議を開き、今、都市が何をなすべきかを話し合うことになっている。
最後に日本政府に次のことを真剣に取り上げることをお願いしたい。
1、「核兵器は絶対悪」という考えに立ち、直ちに核実験の停止を世界に呼びかけて下さい。
2、被爆者のために一日も早い国家補償の精神に基づく援護法の制定をお願いします。
3、外国在住の日本人及び外国人被爆者に対しても、国内在住の被爆者と同等の援護措置が行われるよ
う努力して下さい。国の責任を明らかにする上からも、早急に取り組むべきことであります。
4、長崎・広島の被爆者、また核兵器の実験や原子力発電所等で被ばくした世界の多くの人たちのため
に、国際医療センターの設置をお願いします。
5、世界のすべての国々が、特に青少年に対して、戦争はきわめて野蛮な、非道徳の行為であることを教
えるために、国連と強調して平和教育の実践に努力して下さい。
原爆殉難者の御霊の安らかな憩いを念じ、ご遺族と被爆者の皆様とともに、来年また平和を祈ることができますように、心からご健康をお祈りします。
長崎は、核兵器廃絶運動の出発点であります。平和こそ人類が子孫に残す唯一の遺産であります。
全市民が心を一つにして、核兵器廃絶と世界平和実現に向かって努力することを宣言します。
8月9日
長崎市長 本島 等 |