日本の皆さん、世界の皆さん、ナガサキの声を聞いて下さい。
きょう8月9日。悲しい原爆の日。
一個の原子爆弾がさく裂して、その瞬間、長崎は炎うずまく地獄の谷となり、熱線、爆風、悪魔のような放射線は、十数万の人びとを殺し傷つけました。
放射線は、これまでよりさらに大きく人体に影響を及ぼすことが最近科学的に実証されつつあります。
あの日の惨禍は、今なお生き残った多くの被爆者の心と体をむしばみ続け苦しめています。
長崎は、この原爆が人類の滅亡につながる兵器であることを知り、核兵器廃絶を訴え続けてきました。
しかし、核兵器の開発は、現代科学の粋を集めて何のためらいもなく続けられ、今や全世界の核兵器の威力は、長崎・広島型原爆の百数十万倍にも及んでおり、しかも、核戦略は宇宙空間にまで広がろうとしています。
SDIなどの開発競争は、白雲浮かぶ青空も、緑の大地も、青い海も、今や破壊と殺りくの核戦場となる可能性を持っています。
現在、米ソ両国によるINFを中心とする核兵器削減に関する提案には新たな変化がみられます。両国は、東西の平和共存は可能であるという考えに立ち、年内 に首脳会談を開催し核兵器廃絶に向かって、あらゆる努力をはらって下さい。また、その他の核兵器保有国も核兵器廃絶への道をすみやかに歩んで下さい。
国連の全加盟国は、来年予定されている第3回軍縮特別総会において、過去2回の特別総会の反省の上に立ち、国際世論の盛り上がりを受け止め、核軍縮についての画期的な決議を採択するよう努力して下さい。
ここで、日本政府にお願いを申し上げます。まず、国是である非核三原則を厳密に守ること。核実験の停止をはじめ世界の核軍縮のために積極的に働くこと。世 界の被爆者のための国際医療センターを設置すること。昭和六十年度原子爆弾被爆者実態調査の結果を踏まえて、一日も早く国家補償の精神に基づく被爆者援護
対策を確立すること。子供たちの平和教育を徹底すること-などであります。
本年、長崎は、モスクワで開催され多大の反響を呼んだ国連主催の「核兵器ー現代世界の脅威」展とベルリン世界市長会議に出席して、核兵器廃絶と世界平和の実現を訴えました。
世界平和連帯都市市長会議は、西ドイツハノーバー市で理事会を開き、都市が連帯して核実験の停止と核兵器の廃絶に向かって努力していくということを決議しました。
ヨーロッパでは、東西ともに身近に核兵器が配備されて、市民は核戦争の脅威を肌で感じていることを知りました。
平和は武装して守るものではなく、世界の人びとが手をつないで作り上げるものであります。
平和こそ、人類が子孫へ伝え残すべき最高の遺産であります。
しかし、軍事費はますます増大して、世界の経済の発展も豊かな環境づくりもそのために阻害されています。武器の生産と広がりは、”死の商人”からさらに最新兵器を供与する”死の政府”へ拡大し、各地に軍事紛争の種をまき、人びとの生活に不安と恐怖を与えております。
日本はこれまで平和主義を旨とし、軍事費をできるだけ少なくして現在の繁栄にいたりました。これは人類の新しい実験として、また、21世紀にいたる正しい路線として、全世界に提示されているものであります。
経済活動が国際的に広がるなかで、今こそ世界の国々は軍縮の努力をはらい、「世界は一つ」という理念を確立するときであります。
私たち日本人は、世界の飢餓・難民・疾病・失業などを自らのものとして解決しなければなりません。
ここに、原爆で亡くなられた方々の御霊安かれと祈り遺族の方々と被爆者の皆さんのご健康をお祈りいたします。
原爆のあの悲惨さを決して忘れることなく、核兵器廃絶と世界恒久平和に向かって努力することを宣言します。
8月9日
長崎市長 本島 等 |