日本の皆さん、世界の皆さん、ナガサキの声を聞いてください。あの日 11時2分、真夏の太陽を引き裂いて、せん光が走り、天地が揺れ動いた瞬間、長崎は地上から姿を消しました。人間が焼けただれ、肉を引きちぎられ、累々と
横たわり、また全身黒焦げになって、痛みと渇きに水を求めて、川辺に倒れた無数の男女、まさに人類滅亡の姿でした。
私たちがこの丘に集まり、39年間、核兵器廃絶、世界平和実現を叫び続けてきたのは、長崎の一発の原爆が、広い地域のあらゆる生物を残酷に殺りくし、すべ ての構造物と社会機能とを、痕跡を留めないまでに破壊し尽くした、それは今後核戦争が興れば、地球は滅亡することを、長崎市民は知り得たからであります。
地球の未来は、今や人類自身の選択にゆだねられています。
確かに、これまでの平和を求める国際世論と、大きな草の根運動のうねりが、核戦争のぼっ発を防いできた。しかし、絶え間なく繰り返される核実験、驚異的に 増え続ける核を含む兵器生産、ヨーロッパ、アジアに拡大される核兵器配備、中断したままの軍縮交渉、また増加し続ける局地戦争、まさに世界は、最悪の危機
にあります。なお、今日人間の生存を脅かす不幸な現実を、直視しなければなりません。今、発展途上国の数億の人たちは飢えに苦しみ、世界各地に難民と失業 者が増え、とくに未来を担う数千万人の子供たちは、教育の機会もなく、飢えと極度の栄養失調にあります。
このような状況のなかで、日本の私たちが核兵器廃絶、世界平和実現の叫びを、今よりさらに大きく、世界の声とするためには、世界の人たちの苦しみや悲しみ の解決に力を尽くし、とくに発展途上国に対して、誠実さと謙虚さとをもって、技術と富とを分かち合い、信頼と友情とを獲得しなかればなりません。
さて、被爆国日本の政府に、誠意をこめて申し上げます。まず日本の軍縮に真剣に取り組むこと、米ソ両国を直ちに軍縮の話し合いの席に着かせること、その際世界の平和を求める声を代表して、国連事務総長を同席させることに努力して下さい。
また、今日ソ連のSS20の極東への増強とアメリカの核トマホークの艦船への配備等、日本周辺は、まさに緊迫した状態にあります。
これらの核搭載艦船のわが国への寄港、通過について日本政府は、事前に核の有無を確認して「非核三原則」を厳守して下さい。また日本とその周辺を非核地帯 にすることに最大の努力を払って下さい。被爆者も教育者も、すべての国民が、決然として、平和を守ることを考え、行動に立ち上がるときです。
最後に私は、米ソ両国への平和使節団の派遣と、世界の被爆者のための国際医療センターの設置を提唱いたします。日本政府に来年被爆40周年を期して、被爆 者の国家補償が実現することを強く求めます。また世界中の多くの人たちが長崎を訪れて、原爆の実相を確かめ、人類の未来を考えることを強く訴えます。
ここに、原爆で亡くなられた御霊のごめい福と、ご遺族のご健康をお祈りし、長崎こそ、地球上の最後の被爆都市でなければならないことを誓い、世界永遠の平和実現のために、まい進することを長崎市民の名において宣言いたします。
8月9日
長崎市長 本島 等 |